ワイヤード上に,あたしの知らない「あたし」がいるかどうかはわからない。その「あたし」が,あたしと同じ価値を持ってしまうこともあるのかもしれない。あたしは,「あたし」ではない,あたしなのに。
パイオニア社は,同社の名を語る詐欺メールが世界的に出回り,金銭の要求をしていることをホームページ上で告知し,ユーザーの注意を促している。この詐欺メールは,Pioneer Internationalと名乗る会社からのもので,「パイオニア製DVDプレーヤーが当選しました。製品を受け取るには郵送料として,米国内の場合20USドル,外国の場合は30USドルを送金して下さい(一部略)」という英語の文章が記されている。被害報告は今のところないが,パイオニアでは法的手段も含めて対応を検討している。
今のところ2件の報告が寄せられているだけで,まぁ小規模なイタズラと思われるが,実際にどれほどの数のメールが送信されているのか気になるところ。ワイヤードに完全な匿名などないのは承知のことだが,このような別の名を騙りリアルワールドとの偽装を果たす試みは,はたから見ていて楽しい。なにも,現実の姿を偽るのはネカマだけじゃなくってさ。
例えばの話。A社の名前でA社の新製品の情報が送られてくる。人事異動の情報が送られてくる。キャンペーンの情報が送られてくる。A社のサーバーからちゃんと送信されて(踏み台にされているだけかどうかは置いといて)。名を騙られているA社が知らないところで,情報が事実として動いていく。それに対してA社はホームページ上でそのような事実がないことを告知し,本当の情報はこうであると告知する。だが,その告知自体,A社の名を騙ったクラッカーによる書き換えだったとしたら…。A社が発言の場を持つごとに,A社の名を騙った者が,もうひとつの事実として,情報を流し続ければ…。あたしの知らない「あたし」の存在を,否定する術は,きわめて少なく,なりかねない。
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